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ジャズ喫茶ベイシーの音6

岩手県一関市にあるジャズ喫茶ベイシー。これまで「BASIEの音」と題して、その1からその5まで書いてきました。熱しやすく冷めやすい私が、未だ飽きること無くベイシーへ通い続けており、ますますジャズの深みにはまり込んでいっています。なので、引き続きジャズ喫茶ベイシーで感じたこと、想ったことなど題名を少し変えて、散文を書き連ねていきたいと思います。いつまで続くことやら、いや続けることができるのか。

第26回目訪問(2008年2月上旬)

 昨日のベイシー訪問に引き続き、2日連続でベイシーへ行きました。14:30頃着いたのですが、扉の前には「準備中」の張り紙があり、時間潰しに一関駅方向へぶらぶらと散歩へ行きました。しばらくして、ベイシーへ電話すると、菅原店主の「やってますよ。」との返答があり、ベイシーへ向かいました。

一関駅
(CONTAX T-3 F2.8)

 ベイシーの扉を開けると、昨日とはうって変わって、店内には誰も居ませんでした。一番後ろの真ん中の席に座り、昔買い求めてから、あまり読まないでおいた川崎和男先生の「Artificial Heart川崎和男展」の作品集を読みました。「カタチ」「キモチ」「デザイン」という普段何気なく使っている言葉が、川崎先生の明確な意志によって文章にされていました。どうすれば「美しいスピーカー」を創ることが出来るのか?ベイシーへ通い、先生の作品集を見て、スピーカー自作に関する本を読んで、頭の中に構想を描き続けています。

川崎和男 Artificial Heart
(CONTAX T-3 F2.8 EV-2)

 そしてこんな空想を夢見ています。「ある日、私はいつもの様にジャズ喫茶ベイシーで、素晴らしいジャズのレコードを聴いていた。菅原店主の調整も絶好調。そして扉を開く音がすると、そこには、川崎和男先生と菅野沖彦が来られた。川崎先生はCARNAに乗り颯爽と入って来られ、菅野先生とならんでジャズを楽しんでおられる。そして私は、たまたまその日持参していた、川崎先生の作品集と菅野沖彦先生の新レコード演奏家訪問の本に、サインをねだる。それから川崎先生には英語と日本語の両方でサインして欲しいと頼み込み。川崎先生から、贅沢だ!と爽やかに罵倒されながらも、お二方からサインを貰い、シベリウスのフィンランディアのレコードを、お二方と共に聴く。」ということです。

 まぁ有り得ない夢です。

 その作品集を読んでいると、ベイシーで流れているジャズと共に、言葉とカタチがすーっと自分の中に入ってくるようでした。自分の他、誰もいないベイシーの店内で、ベイシーのスピーカーを見ます。無骨な外観に思えますが、店内の席や柱、証明、置かれている小物にいたるまで、無作為に見えて、必然的にあるべくしてそこにあるような自然な感じがします。その内装にあったスピーカーのカタチだと思いました。

 何度となく、ジャズ喫茶ベイシーへ来て、音を聴いて、蔵の中に身を置いて、飽きることが無いのは、それぞれが素晴らしく調和が取れているからだと思いました。

 ここで聴いて、感動したレコードを覚え、そこからたくさんのジャズマンを知ることができ、自分がCDを買うときにも助けになっています。ただ、ベイシーの音と、CDに入っている音の落差に落胆することも少なくありませんが。

 ベイシーでレコードを聴くときに限りませんが、私は眼を閉じます。そしてなるべく忘我の境地でレコードを聴くことに努めています。昔は分析的な聴き方を随分としたものですが、ベイシーでそれをするのは、もう十分だと思っています。そして、菅原店主がレコードを替えるわずかな時間に、感じた事を断片的に言葉にしてノートに書き留めています。いつも、感じたことを言葉にする難しさを感じています。

 ベイシーへ来て2時間が経過し、紅茶を追加注文しました。人間、集中していると時が経つのが早いです。2時間という時はすぐに過ぎてしまいます。店内を見渡すと、ベイシーへ居る女性は客も含めてみな美人です。そしてみんなタバコを吸っています。一方、オヤジ達は自分も含め皆禁煙です。現代を象徴しているかのような光景です。私はタバコを吸いません。酒もめったなことでは飲みません。なんとジャズとかけ離れた自分なのだろうと思いました。

 自分の他に客が誰もいなくなり、セロニアスモンクの難しいレコードがかかります。京都でいえば、お茶漬けをだされたようなものでしょう。店終いのようなので、難しいレコードを聴き終えてから、店を出ました。店を出るとき店主は、クラシックのレコードをかけていました。外にでると、ベイシーの看板の照明も消え「本日終了」の張り紙が扉に貼られていました。3時間の時はあっという間に過ぎてしまったのです。

 菅原先生。いつも長居してすいません。

(2008年02月27日)

第27回目訪問(2008年2月上旬)

 一関のジャズ喫茶ベイシーへ行きました。最初にかかっていたレコードはRELAXIN' WITH MILES DAVIS QUINTETでした。店内は3連休のせいか、6人程の先客がおりました。今日はいつもより、スピーカーへ近づいて座りました。そして、本当はオレンジジュースが飲みたかったのですが、菅原店主からは問答無用にコーヒーが出てきたり。(笑)

 いろいろとあって、私はニコチンやカフェイン、アルコールの様な常習性のあるモノは摂らないようにしたいと思っているのです。結局、せっかくの店主お手製のコーヒーはおいしく頂きましたが。

 続いて、WYNTON KELLY/KELLY AT MIDNIGHTのレコードがかかりました。狂喜じみたところは無いのですが、バランスが取れていて、ちょっとした疾走感があって、とても良い曲だと思いました。

 左の壁を見ると、JBL社ポール社長の自宅リスニングルームと思われる写真が、新たに立てかけてありました。たぶん菅原店主が、JBLなどへ訪米した際に愛機のライカM3で撮られた写真なのでしょう。その写真には、ピアノブラックに塗装されたJBL DD-66000とMark Levinsonのシステムが荘厳に写っていました。写真に写っている器機はハイエンド中のハイエンドで、リスニングルームもご立派なのですが、成金趣味とか、いやみったらしさが全く無い美しいモノでした。上品で、すがすがしささえ感じられます。

 BILL EVANS/MORE FROM THE VANGURDのレコードがかかります。聴き慣れた曲ですが、ピアノは穏やかで柔らかいのですが、どことなく気だるく、冷たく感じました。冷えた蔵の中でレコードを聴いているからでしょうか。

 SAMMY DAVIS JR BUDDY RICH/SOUNDS OF 66のレコード。BUDDY RICHのドラムが、と絶句してしまう程の突き刺さってくる程の音でした。そういえば私の弟は遅まきながら、ドラムを始めていたなと思い出します。兄弟の中で楽器が全く出来ないのが自分だけというのが、情けないです。

 JOHN COLTRANE/MY FAVORITE THINGS。コルトレーンのレコードにしては右のスピーカーからサックスの音が聴こえます。今日はこのコルトレーンのレコードを最後に店をでました。

(2008年02月27日)

第28回目訪問(2008年2月中旬)

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8)

 一関にあるジャズ喫茶ベイシーへ。昨日の雪でベイシーの屋根もうっすら雪化粧していました。14:00を少し過ぎた頃に入店したのですが、もうすでに客が3人もいました。奧左隅の席に座り、オレンジジュースを注文しました。カフェインはなるべく摂りたくないのです。

 BUD POWEL IN PARISのレコードがかかりました。この日は何も書くことがありませんでした。眼を閉じて、ジャズのレコードを聴いて、頭の中をカラッポにして、言葉にできなかったのです。聴くという行為から、言葉を紡ぎ出すのは本当に難しいと感じました。

 この日は、言葉にする事ができない程、ジャズに集中していたということにしておきましょう。

(2008年02月27日)

第29回目訪問(2008年3月上旬)

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8)

 一関のジャズ喫茶ベイシーへ行きました。16:30頃に扉を開けたのですが、客席は満席。2つの丸テーブルも人で埋まっていました。菅原店主は特等席でVIPな御仁と雑談をしながら、自らかけたレコードを聴いておられました。もう何十回とベイシーへ通っているのに、多分こんな音だったのだろうと、半分昔の音は忘れてしまっていたのでした。我ながら曖昧な記憶です。

 Coltraneのブルーのジャケットが印象的なレコードがかかります。前に一度聴いた覚えがあります。この重厚な低音の土台に、中音、高音が重なり溶け合い、悪い音のハズがありません。毎回Coltraneのレコードを聴くたびに、このメロディーを紡ぎ出せるのは天才とか、人間の狂喜としか言い表せません。どこから、このメロディとリズムはやってくるのだろうと感じます。解りません。だから飽きる事がないのでしょう。

 続いてA LOVE SUPREAM JOHN COLTRANEのレコードがかかります。ドラム、ピアノ、ベース、サックス、最高の音とジャズです。このレコードは、私個人もCDで持っていて愛聴盤となっていますが、この音を前にしてしまうと、私の自宅の音は、月の光に対するホタルの光、とても比べものになりません。勢い、熱さ、リズム、情念が直接的に伝わってきます。自宅でただ傍観者の如く聴いているのとは違うのです。

 このレコード演奏は、ベイシーに居た人全員が集中して聴いていました。集中せざるを得ないですし、塩化ビニールのレコード盤がこれ程、人を惹き付けて止まないということを、あらためて実感させられました。

 広い部屋、高能率のウーハー、ミッドレンジ、ツイーター、マルチアンプ。この条件でないと、こういう音は出ないのだろうと思いました。ほとんど確信するのに近いおもいです。こういうシステムを狭い部屋へ入れても、マトモに鳴らないのは明かです。ならば、6畳間や8畳間で小さなスピーカーを入れて聴くのは妥協なのか?ものすごい葛藤が頭にあります。小さな部屋でこの音と同じような音を出すのは、絶対無理にしても、演奏者の想いのカケラくらいは再生することができるスピーカーは作れないものか。また、BASIEへ来て雑念に捕らわれています。

 レコード演奏が終わり、拍手をしているお客さんが居ました。その通りです。この日はレコード3枚を聴いてベイシーを出ました。いままで訪れた中で最短の滞在時間です。もう胸がいっぱいになってしまったのです。帰り際、渡辺貞夫先生のチケットを求めましたが、まだ出来ていないとのことでした。次回来たときに求めることにします。

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8)

(2008年05月01日)

第30回目訪問(2008年3月上旬)

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 渡辺貞夫クインテットのライヴの4日前、ジャズ喫茶ベイシーへ電話をかけました。ライヴの前売り券を買わずにいたため、当日券が手に入るかどうか確かめるためでした。それで、当日観に行けるかどうか菅原店主に聞いたところ、土曜日はいっぱいの様で、「金曜の方がイイですよ。」との返答に、金曜日に行く旨を申し上げました。そう言ったところ、「お待ちしております。」との菅原店主らしからぬ発言が・・・。それで電話を終えました。ということで、4月11日金曜日のライヴへ行くことに決めました。
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渡辺貞夫
-Sadao Watanabe Quintet-
BASIE'S AT NIGHT
2008

渡辺貞夫 BASIE'S AT NIGHT

 一関ジャズ喫茶ベイシー(Basei)へ行きました。その日は渡辺貞夫クインテットのライヴの日でした。日が暮れ、夕闇に風景が染まる頃、年に数回ジャズ喫茶からライヴハウスに変わるベイシーの前に立ちました。ベイシーの明かりが灯っていました。開演の1時間前だというのに、もう私の他にもお客さんが来ており、ベイシーの前で記念写真を撮ったりしておりました。

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8 EV-1)

 中へ入り、当日券を求めてから椅子に座りました。BGMとして、Bill Evansが流れています。1月ぶりにベイシーへ来ましたが、やはりイイ音です。横を向くと、巨大なベイシーのスピーカーが鎮座しています。しかし、エンクロージャーの巨大さ故なのか、 15インチのウーハーが小さく見えます。これなら、自分の部屋にも入るのではないかと、勘違いというか、錯覚もはなはだしい考えがよぎります。 

 開演までの1時間ほど、BGMを聴きながら、気分が高揚し胸が高鳴ってくるのが分かりました。ジャズ喫茶としては広いベイシーもライヴハウスとしては広くありません。続々とお客が入って来て、たちまち店内は人で一杯になってしまいました。60〜70人は入ったでしょうか。私は、ビールや水割り、ワインを注文する他のお客を尻目にオレンジジュースを注文し、待ちました。

 そしていよいよ今宵を楽しませてくれるジャズメンが2階から降りてきて登場です。渡辺貞夫先生までの距離がおよそ3mくらいのところに私は座っています。初めてご本人を拝見しました。とても若々しく感じられました。わたしは偉大なジャズマンということで、勝手に図太く、しゃがれて低い声を想像していたのですが、渡辺先生が挨拶すると、とても高い声の人で驚いてしまいました。CDのBASIE'S AT NIGHTで渡辺先生の声は聴いていたのですが、やはり肉声は違いました。

 演奏が始まりました。私は演奏を聴いて体を動かさずにはいられませんでした。これがSwingというのでしょうか。コントラバスベース以外はPAを通さない生の音なのです。なんと贅沢で楽しく、かけがえのない時間を過ごしているのだろうと思いました。Basieの白熱灯が、渡辺先生を照らし、陰影をより深くしていました。そして先生は挨拶の時のような穏やかな表情とは異なり、真剣そのものでした。楽しい曲、哀愁を誘うバラードなどをおりまぜながら、ライヴは進んでいきました。楽しい時間で、瞬きするのも惜しい程の光景でした。

 音はライヴへ来るたびに思うことですが、スピーカーから出る音とまったく違っています。生そのものの音と、スピーカーから聴く音はこんなにも違うものかといつも思います。途中、先生の意図する音が出なかったのか、苦笑いを浮かべたり、ハウリングが起きてしまう一幕もありましたが、楽しいライヴは続いていきました。そして途中、休憩の時間となり、係の人でしょうか、屈強そうな黒いスーツをビシッと決めた人が、入り口の扉を開け、中の熱気と、タバコの煙を外へ逃がしていました。私も席を立って、照明の方向を見ると、灯りにタバコの煙が反射して、漂っているのが見えました。幻想的ともジャズらしいとも思われる光景でしたが、タバコを吸わない私からすると、体に悪そうだ、などと身も蓋もないことを考えてしまいました。

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8 EV-1)

 休憩の時間中にもBGMが流れ、菅原店主やウエイトレスの女性方は大忙のようでした。そして休憩時間が終わり、演奏が再開されました。ますますジャズは盛り上がっていきます。渡辺先生が奥を見つめ、手を振り始めました。私が何のことだと、後ろを振り向くと、カウンターの向こうにいるウエイトレスの方々が皆手を振って踊っているではありませんか。なんとも楽しい光景です。それはそうと、何でベイシー関係の女性方はみなさん麗しいのでしょうか。これは、菅原正二店主の個人的趣向が完全に反映されているとしか思えません。

 ピアノ、ベース、ドラム、サックス、パーカッションどれも凄かったのですが、特にパーカッションを演奏するNdiasse Niangさん。黒人の方だがどこの出身なのでしょうか。リズム感とパワーが凄まじく、これは歌謡曲や流行音楽を聴いて育った私や多くの日本人では、絶対に無理なリズム感でした。血や文化があのリズムを刻むのだろうと、パーカッションソロの演奏の時強く思いました。

 苦しいときは永遠に続くように思えますが、楽しい時はあっという間に過ぎ去ってしまうのが、この世の理です。最後の曲は、みんなで手拍子をしながら盛り上がって終了し、アンコールもそれに続いて終了してしまいました。終わってしまったのですが、名残惜しく誰も席を立たず、手拍子を続けていると、ベイシーの2階に上がった渡辺貞夫先生は、独りサックスを吹き始めました。静寂を誘うそのメロディーは、ついさっきまで大興奮していた観客を、しんと静めてしまいました。2階から吹き抜けを通して聴こえてくるメロディーも美しかったのです。

 そして菅原店主の「今日はおしまいでーす。」の声でライヴが終了しました。「また、明日もありますから」と、店主が言っていたことを考えると、今日来たお客の皆さんのうち結構な人が一関に泊まり、明日もライヴを観るのだろうと思いました。私は潔く、明日のライヴを諦め、家路に着くことにしました。時計を見ると、21時45分を過ぎていました。

 今日の出来事も忘れない。

ジャズ喫茶ベイシー
(CONTAX T-3 F2.8 EV-1)

(2008年04月21日)

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