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BASIEの音4

ジャズ喫茶で、言わずと知れた、岩手県一関市にあるベイシー。全国から、新幹線や飛行機に乗ってまでも、ベイシーの音を、ジャズを聴きに行く人も多いという、まさに言ってみればジャズ喫茶の聖地。そのベイシーへの訪問記を、最初は「徒然雑記・散歩」に気楽に書こうと思っていたのですが、音を聴いて、これは気楽に書ける音ではないし、一回行っただけでは掴みきれない懐の深さというか、奥の深さを感じたので、別ページで書いてみることにしました。

第16回目訪問(2007年6月上旬)

 坂田明 トリオ / Mii
 プラスone!
 LIVE AT BASIE
 2007

 坂田明(Alto Sax. Vocal)
 黒田京子(Piano)
 バカボン鈴木(Bass)
 坂田学(Drums)



 私のBASIEへの16回目の訪問は、坂田明トリオのライブです。初めて薄暗くなった頃ベイシーへ行くと、何人かお客が集まっておりました。なにせジャズのライブを観るのは久しぶりで、BASIEでライブを観るのは初めての経験なのです。胸も高鳴ります。店の前には馬鹿デカイ四駆が駐車しています。サハラ砂漠でも走ってきたのでしょうか。

 店へ入るといつもの店のレイアウトが、ライブ用に完全に変更され、さらに期待を高めてくれます。驚いたのは、客席と演奏者の近さです。当たり前ですが、BASIEの店内の広さから、観客から演奏者はほとんど目前なのです。



 BASIEへ来る前に、一関のジャズ喫茶ROYCEで出会ったカップルと再会するも、実は以前ベイシーでお会いしていたことが判明したのでした。なんと彼らが2回一関へ来た内の2回とも私と会っているというのも不思議な縁を感じます。どうやら殿方は東京でお店を何軒か経営しているらしく、私も東京へ行く折には行ってみようと思いました。



 ところで問題なのがライブです。私の前の席にはVIPと思しき客が慣れたように座っています。しかし、こちらはBASIEのライブも坂田明のライブも初めてなのです。冷静にいられるはずありません。そしてPAを通すだけとは思えない程、マイクが各楽器に付けられています。ライブレコーディングも兼ねているのでしょうか。だったら嬉しいのですけど。

 ちなみに私は坂田明先生のCDを1枚たりとも持っていません。持っていないだけでなく、多分演奏している曲自体を聴いたこともありません。そして、演奏が始まりました。そして、すぐに心を動かされました。これは日本というものを基本に、それに根ざしたジャズというように感じました。サラッとした外国風のシャレたジャズをやろうとは、これっぽっちも思っていないだろうと思われる演奏だと思いました。泥臭く、汗くさく、日本的な根源を全面に押し出して、極めて真剣に演奏されていました。

 ときおり、BASIEのライトが坂田明先生のマウスピースのところにあたり、口先が輝き、まるで燃えているように見え、実際の演奏も燃えておりました。もうこれっきり終わりだという、完全に力を出し切るような音楽に見えました。私もその真剣さに応えたいと思い、まさか叫ぶ訳にはいかないので、リズムにノって、首を前後に振りました。というよりもこうしてノれずにはいられないのです。

 シンバルの輝きがどうの、生のサックスの音色と定位がどうの、とかいうオーディオ的な聴き方は一切していません。というよりも出来なかったのです。前身に力を込めて聴いていたらしく、今この文章を書いているとき、変なところの筋肉が痛いです。楽しく、充実した夜でした。

 前にいたVIPのお客はさも当たり前のように聴いて、菅原店主の見送りでかえって行きました。その高級車で帰る姿と、菅原店主が気を使うくらいの方なので、”そうとう”の人なのでしょうが、私は確信出来ます。自分の方がこのライブで強く感動したことを。

 心を強く動かされることを”感動”といいます。その感動する能力を感性といいます。どんな人物だろうとこれを失っては終わりだと思い、自分はその感性をもっと磨いて行きたいと思いました。これだけ感動を与えてくれたライブと、このライブの開催に尽力された方々に感謝いたします。

 このライブには作家の村松友視先生、音楽プロデューサーの伊藤八十八先生も、観ておられたとのことでした。前の方に座っていたので、全然分かりませんでした。私は88レーベルのジャズが好きなので、(全作品SACDハイブリッドと、アナログレコードの併売というのがたまりません。)お気に入りのアルバムを持ってきていれば伊藤八十八先生にサインをねだったのに、と残念な思いもしました。

(2007年07月07日)

第17回目訪問(2007年6月中旬)



 一関のベイシーへ、店内に入ると店のレイアウトが変わっていることに気付きます。ライブが間を空けずに行われるため、ピアノとドラムがそのままになっています。店主に一応尋ねると「ライブだから。」という素っ気ない返事が返って来ました。いつもと違う店内に、多少の違和感を覚えつつも、空いている席に座ります。ここで愛用しているボールペンのインクが切れてしまい。私もいつものボールペンではない筆記用具でノートに書いていくので、こちらも変な感じです。

 お店のレイアウトが変わって違和感を感じ、音にも何かすっきりしないものを感じるのですが、お客さんは11人になっていました。この休日、ベイシーは盛況の様です。

 端の席に座ったのですが、どうも端の席は落ち着かないため、席を一番前の真ん中の席へ移動しました。端でも、片側から音が聴こえ、それだけでも音楽になっているのは凄いところですが。そして移動して、巨大なスピーカーをこれ程間近で見つめながら聴くのは初めてのことです。ツイーターの指向性の軸上から外れるらしく、高域がおとなしくなり中低域主体の音に変化したように思います。スピーカーとの距離の近さとは裏腹に、ドラムも少しおとなしめの音色です。

 やはりいつものベイシーのレイアウトに店内が改装されないと、どうも違和感が拭えません。しかし最後には、何のアルバムだか忘れましたが、Coltraneのレコードがかかり、目の覚めるようなサックスの音色とその空気感に圧倒されながら感動しました。この音はCDに入っているのでしょうか。そして入っているとして、どうやったらこの音を取り出せるのでしょうか。そのことを考えながら、この日ベイシーを後にしました。

 次回ベイシーへジャズを聴きに行くときは、店内が元に戻ってからにしようと思います。

(2007年07月07日)

第18回目訪問(2007年7月上旬)

 日野皓正クインテット
 LIVE AT BASUE
 2007

 日野皓正(tp)
 多田誠司(sax)
 石井明(pf)
 金澤英明(b)
 和丸(ds)



 ベイシーにて、日野皓正クインテットのライヴを見に行きました。前回の坂田明先生のライヴの時に大感動をしてしまったので、今回も行ったのでした。日が長く、まだ暗くならないベイシーの店内へ入ります。店内へ入ると見覚えのあるライブハウスになっていました。

 ライブが始まる前に、菅原店主がレコードをかけて下さるのですが、それがとても良い音でした。久しぶりにベイシーの音を聴くせいもあるのでしょうが、ここのところ私的にはVICTORのSX-500DEに惚れ込んてしまった自分の耳にも、やはりベイシーへ来ると「違うなぁ。」と、謙虚な気持ちにさせられます。

 前回と同じ真ん中に近い席に座りました。店内を見渡すと見覚えのあるお客さんのお顔があったりします。後ろの丸机にはVIPと思しき方々がいたり、野口先生の寄贈されたレコード棚のところには、前回と同じように、ジャズ喫茶ELVINのマスターがいたりと、どことなく家庭的な雰囲気です。



 しばらく、菅原店主のレコードに耳を傾けていると、本日の主役、日野皓正クインテットのメンバーが登場しました。トランペッターの日野皓正先生は、深紅のジャケットを着ており、優しそうな目の奧に鋭いものも何か感じ、演奏が始まりました。

 この曲調は何でしょう。一音一音が、一瞬を切り取って行くような曲だと思いました。深紅のジャケットを着て燃えるように見える日野先生ですが、曲調は真青の無から突如何かが生まれて来るような音で、聴いている私も、一瞬たりとも気が抜けませんでした。

 途中、日野先生は、若いドラマーを煽るようにトランペットの音を浴びせ、それから俄然ドラムの迫力が増したように思います。ビートとリズムがジャズの命ですが、ドラムは命を刻むようなものだと感じました。それが輝きだしたら全体がますます良くなり、混沌とした音のうねりの中へ入っていきました。

 開始から2時間30分。休憩も無しで最後まで、凄まじい集中力で演奏し通してしまったのでした。おかげでフリードリンクなのに、何も飲めないお客が多かったのではないでしょうか。私は元々お酒は飲まないので、汗をかいた分のオレンジジュース一杯で十分でした。

 しかし、およそ40人のお客にこの演奏は贅沢というか、有り難いというか、本当にジャズ喫茶ベイシーは、ジャズの文化事業をしていると思いました。営利企業のように利潤を追求したら、このライヴは出来ないか、もしくは利潤を追求したなら、チケットは高額になり、私のような労働者階級の者は観に行けないでしょう。

 最後に、日野先生と菅原店主が二人並んで記念撮影をして終わりとなりました。何かの雑誌に載るそうです。演奏が素晴らしかったので、日野先生のアルバム(CRIMSON)を買い、日野先生直筆のサイン頂いてしまいました。握手を求めると、日野先生はがっしりと私の手を握りしめ、まっすぐ私の目を見てくれました。こんなに嬉しいことはありません。

 今日の夜の出来事を忘れない。

(2007年07月07日)

第19回目訪問(2007年7月上旬)



 一関のベイシーへ。蔵の中へ入るのがはばかられる程、梅雨だというのにいい天気です。最初のレコードはJoe Newman/I love babyです。新鮮というか、鮮度の高い音に驚きました。このLPは、LP12SEでかけられているのでしょうか。いつもより輪郭が立ち、音の密度感があがったように思いました。S/N比も非常に良くLPなのにノイズが気になりません。それともこれはレコードの盤の特質なのでしょうか。

 低音、特にドラムもいつものように生々しいのですが、低域のドラムに柔らかい弾力のような感触を感じることができます。美しいドラムです。さらに、トランペットをそこで吹いている感じ、というのがよく出ている音で、輪郭は正確に出ているのですけど、それが耳に付いたり、間接音や、周りの空気感の薄さにつながらないところが素晴らしいと感じました。

 2枚目のレコードTommy Flanagan/Red Mitchell/Elvin Jones/Super Session。美しい。ピアノ、ベース、ドラムが渾然一体となって美しいメロディアスなジャズを奏でています。ピアノの音像もまるで見える様なのが、ベイシーの尋常では無い所で、ここでベートーベンのピアノソナタを聴いてみたいという欲求に駆られます。きっと心に届く音で鳴ってくれるに違いないと思うからです。ELVIN JONESのドラムは瑞々しく、低域なのにしなやかで、リズムとビートを刻む様に、メロディを奏でているようです。

 3枚目のレコードはThe Roy Haynes Trio/Just Us。初めて聴くレコードばかりなので退屈してしまうことがありません。途中のドラムソロはとくに圧巻でした。高速なドラミングに引きの速い音。そして適度な柔らかさと張りを持った音には、完全に参ってしまいました。この音はmoの軽量なウーハーと、密閉型のエンクロージャーによるところが大きいのだろうと、何度来ても思います。

 4枚目のレコードはArt Pepper Qurtet。Art Pepperのアルトサックスが天井知らずに上まで伸びきり、とても気持ちの良い音を聴かせてくれるのです。ところが途中でアクシデントが発生。サックスが歪んでしまいました。素早く店主は他のレコードにかけ替えます。素晴らしい音だっただけに少し残念でした。

 5枚目のレコードは、Ray Bryant Trio。よく聴き知った盤です。気持ち音量は控えめ、アクシデント前は、極上の音を聴かせてくれていただけに物足りなさを覚えます。あの極限の音は、常にトラブルと紙一重なのではないかと考えました。車で言えばF-1のような、完走できるギリギリのラインに耐久性やセッティングを持って行くような音と形容すれば良いのでしょうか。しかし、自分で持っている盤がかかると複雑な気持ちになります。何せ私のオーディオではこの音はでないのですから。ブラシで軽くドラムを撫でるような感触という繊細な感じも、このベイシーのシステムから聴こえるから不思議です。

 6枚目のレコードは、ZOOT SIMS/AL COHN/PHIL WOODS/JAZZ ALIVE A NIGHT AT THE HALF NOTE。楽しい夜の空気が伝わって来る。

 7枚目のレコードは、CANNONBALL & COLTRANE。ベイシーでは良くかかる盤です。

(2007年07月18日)

第20回目訪問(2007年7月中旬)



 一関ジャズ喫茶ベイシーへ行きます。扉を開けると、何とも表現し難い女性ボーカルが聴こえ、思わず涙がこぼれそうになります。危ない危ない。外は台風4号接近中につき雨。店内も閑散としており、どうもしっとりしている様子。

 GENE HARRID AND THE PHILIP MORRIS SUPER BAND/LIVE AT TOWN HALL N.Y.C.のレコードがかかります。梅雨と台風の湿気を薙ぎ払うような選曲です。そして菅原店主は、おもむろにドラムのセッティングを始めると、なんと自らドラムを叩きはじめたではないですか。20回目のベイシー訪問にて、初めて菅原店主がドラムを演奏する姿を拝見しました。店主は、時折考えるように、確かめるようにドラムを演奏しています。外の台風や陰鬱な空気を払うようなドラミングとレコード演奏で、レコードと生のドラム演奏が溶け合っていました。

 続いてのレコードは、LOUIS AEMSTRONG AND HIS FRIENDS。雄大なレコードです。しゃがれて腹の底から低く出てくる声は、小さな事など気にするななどといった感じで、ひたすら世界の大きさやすばらしさを歌っているように感じました。広い心にしてくれる音楽だと思いました。

 WALTER BISHOP JR. TRIO/SPEAK LOW。ピアノ、ドラム、ベースの基本的なトリオと思いましたが、ピアノのリズムの取り方が独特で面白いです。

 2杯目の紅茶を注文してから、ひたすらかかるレコードに聴き入ります。もう、そこにあるのは、スピーカーの前にせり出した音像から放たれるリズムとビート、メロディ、そしてジャズだけです。その後、Rockないでたちな方々が多数来店されたためかどうかわからないのですが、レコードも疾走感のあるモノばかりになっていきました。

 MAX ROACH AND CLIFFORD BLOWN/The Best of Max Roach and Clifford Blown。MAX ROACHのドラムソロは圧巻でした。ドラムが鳴るたびに、私の頭の中の何かがパァーと弾けて、快楽物質が染み出て来ます。とくに腹に直接ガツンと来るキックドラムは、ここでしか聴けないと思いました。重いのだけれど、軽くて引きの速い低音。こんな音をいつかだしてみたい。トランペットも凄すぎます。一音一音が芸術であり、それだけで参ってしまいます。

(2007年07月18日)

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