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BASIEの音2

ジャズ喫茶で、言わずと知れた、岩手県一関市にあるベイシー。全国から、新幹線や飛行機に乗ってまでも、ベイシーの音を、ジャズを聴きに行く人も多いという、まさに言ってみればジャズ喫茶の聖地。そのベイシーへの訪問記を、最初は「徒然雑記・散歩」に気楽に書こうと思っていたのですが、音を聴いて、これは気楽に書ける音ではないし、一回行っただけでは掴みきれない懐の深さというか、奥の深さを感じたので、別ページで書いてみることにしました。

第6回目訪問(2007年2月中旬)



 小雨がぱらついたり、少し陽がさしたりする午後15時に、ベイシーへ入りました。店内に入るといつもは薄暗くて見えないJBLの3wayシステムが、良く見えます。店内を見回すと、テレビ局?の撮影クルーの方々が居ます。そのためのライトアップなのでしょう。普段よく見えない山の字に切られた音響レンズとホーンツイーターがよく見えます。



 今日も真ん中の席には先客がおりましたので、JOHN COLTRANの席へ座ることにしました。歯切れの良いドラム艶めかしいエレキギターが聴こえます。お客さんは4〜5人でしょうか。撮影クルーが居るのにもかかわらず、今日も店主が一人で切り盛りしています。とても聴きやすい音量でした。

 明るくリズミカルな曲がかかるのに、出てくる音はどこか哀しげ。この日のベイシーの音は各楽器の前後感が良く出ていたような気がしました。いつものベイシー。いい音。針でレコードの溝をトレースしているだけなのに、なんでこんなに迫力があり、まろやかで、優しく、哀しい音色が出てくるのか、考えれば考える程不思議。エジソンの蓄音機と原理はたいして違っていないはずなのに。

 こうして何回もベイシーへくると、新しい音や感情の発見がありますが、この抽象の世界、音を文章化するのはとても難しい。

 COLTRANEのサックスもMILESのトランペットも空気を切り裂き、脳天に圧倒的な迫力で迫ってくる音なのに、どこかその音はやさしい。自分でもどういう意味か分かりません。

 撮影クルーは店主の一挙手一投足を撮影しています。レコードを棚から出す様子。レコードをプレーヤーに掛け替える様子。ジャケットを掛け替える様子。特等席でスピーカーを背に後ろ向きに座って、タバコを吸う様子。どれも様になっているというか。カッコイイ。

 そんなカッコイイ店主の向かいで、私は普段よりよく見えるスピーカーをみて、あのウーハーのカットオフ周波数はいくらぐらいだろうとか、ミッドレンジの再生周波数帯域は?とか考え始めてしまう始末。かなしいオーディオマニアの性か。

 結局のところ、そんなことどうでも良いくらい、瑞々しいドラムにはじけるようなシンバル。輝く音色。音の洪水。本当の洪水はあっては困りますが、ベイシーの音の洪水は大好きです。

 最後はBill Evansで締めて終わりにしました。また来よう。

 

(2007年03月03日)

第7回目訪問(2007年2月中旬)

 この日は午後1時30分ころベイシーに到着するも、扉には準備中の文字が張ってありました。少し早く来すぎたと思い、磐井川の堤防を散歩して時間を潰しました。広々として、こんなところに蔵があるとか、図書館があるとか色々と分かりました。

 中でも郷土歴史の重要建築物の地図が街なかに掲示されていたのですが、そのそうそうたる歴史ある建物に混じり、ちゃんとベイシーの位置も記されていることには感動しました。もう、ベイシーは一関の歴史の一部なのだと。そんな風にして30分くらい付近を散歩してから、ベイシーへ入りました。



 ベイシーへ入ると、特等席の横が空いていたので、そこへ座ることにしました。今日も店主が一人で切り盛りしているようです。トミー・フラナガンを聴きます。

 続いて何の曲でしょうか、ひたすら哀しく絶望的なイントロに始まり、哀しいリズム、こん身のドラミングが打たれます。激しいピアノとドラムの隙間にどうしようもない悲しさが感じられ、アドリブで演奏すると、そのときの人間の精神状態、例えば楽しさ、衝動、悲しさ、を映し出す鏡になってしまうのでしょう。刹那的人生を聴いている様でした。

 続いてDUKE ELINGTONE楽団のBIG BANDがかかります。すさまじい迫力と、音圧、混沌としていくとき、すべての楽器の音が混じっていくときが、まさに至福のときです。こんな複雑なレコードの溝を、針もトレースしなければならないわけですから、大変だろうななどと思ったりします。

 ここで私の隣の特等席に店主が座ります。JBLのシステムを背にタバコを吸い、何を想っていらっしゃるのか分からないのですが、「聴く鏡」に挿入されている一枚の写真のように、絵になっていると感じました。ここでこのような情景を見て、自分の中の美的好奇心が刺激され、猛烈にCONTAX T3のシャッターボタンを押したいという欲求に駆られたのですが、その勇気はありませんでした。なんて小心者なのでしょう。撮って「アサヒカメラ」に応募したら、きっと入選していたでしょうに。(笑)

 実は私も、ベイシーへ通うようになってから菅原正二店主著書の「聴く鏡」を買い求め、すでに何回も読み返し、すっかりと愛読書になっていたのでした。その愛読書を今日は持ってきていたため、店主にサインをお願いしました。店主はスピーカーを背にリラックスした状態でしたが、いやな顔ひとつせず、私を奧のテーブルへ連れて行き、そこで、サインと私の名前をしたためて頂きました。もう私の持っている「聴く鏡」はずっと大切な宝物です。

 そのとき私は初めてベイシーの店主と会話をし、舞い上がってしまいましたが、店主は「まぁ、ゆっくり聴いていってください。」と静かに仰ってくださいました。また、「聴く鏡」の前の著書で、絶版になっていた「ジャズ喫茶ベイシーの選択」が、3月に加筆され再販されると言うことで、案内のチラシも頂きました。


(愛用のノートとボールペン。そしてベイシーのコーヒーカップ。)

 Count Basie and his Orchestra/KANSAS CITY SUTESのディスクがかかりますBIG BANDに似つかわしくないほど、とても控えめでシンプルなピアノが印象的です。楽しく、疾走感がありカラっとしていて風のように吹き抜ける感じです。そういえばジャズ喫茶BASIEで、"Count Basie"を聴くのはこれが初めてです。お客さんも他に何人か来ていましたので、ファンサービスでしょうか。



 続いてもCount Basie and his Orchestra/KANSAS CITY 7 がかかります。楽しいです。蒸気機関車にゆられて、大陸を横断しているような楽しさとでも言うのでしょうか。行く先に何も障害はなく、ただ楽しく、のどかで、どこまでも続いていく感じです。

 こうしてこの日もベイシーを堪能し、愛読書にサインまで頂いて、幸せな気持ちを抱えて家路につきました。

(2007年03月03日)

第8回目訪問(2007年3月上旬)



 三月上旬、北海道旅行から帰ってきてやっぱりBasieの音が聴きたくなったので、ベイシーへ行きました。お昼過ぎ店内に入るとお客さんは2人、BLUE TRUMPETSという盤がかかっておりました。ベストポジションの席が二つとも埋まっていましたので、右後方奥の席へ座りました。椅子のネームプレートを見ると、「坂田明」の文字が。恐れ多くも今日はミジンコ研究で有名な・・・いや、サックス奏者で有名な坂田先生の席へ座ることとなりました。

 というわけで、この盤を聴いているとやっぱり良いです。何の制限もなく自由奔放に鳴るトランペットの音、そして豊かでキレのあるベースやドラムに支えられた音。

 続いての盤に針が落とされると、ベースとシンバル、ビブラフォンの音が、体にぶつかってきます。レコードのジャケットをみると、Milt Jackson and Wes Mongomeryでした。このドラムソロの迫力は何だ!と叫びたくなるほどの超高速で軽い低音がすっとんできます。この時点でお客さんは4人になっています。ピアノの生々しさ、ビブラフォンの金属的響きの消え入るさま。Mongomeryのエレキギターと各楽器の溶け具合が最高に楽しく感じます。

 狂気なのか狂喜なのか、ジャズ初心者の私にはまだ解からないところもあるけれど、音に集中して、スピーカーの奥に何か見えてこないか必死で探します。音が見たい。

 続いては、のどかでシンプルなピアノだなと思って、レコードのジャケットを見ると、BASIE/EASIN' ITのレコードでした。それからオーケストラが展開してきます。自分の家で聴くBasieとは全く違う音。私ではBasieのジャズを10%も再生してあげることができていないと感じました。何でこんなに心を打つのか。こういう音を自分の家でも出したいですがTD508の8cmフルレンジでは、これは無理と断言できましょう。モノには限度。風呂には温度というのが、あるようです。(笑)オーケストラの迫力は圧倒的でいて優しい。この迫力にまずは身を任せ聴くのみ。楽しいの一語に尽きます。

 ここで店内を見渡すと、お客さんが入れ替わり立ち替わり入ってきて、店内のお客さんは10人になっていました。こんなにも盛況なベイシーを失礼ながら初めて見ました。

 CANNONBALL & COLTRANE。サックスの音色を聴くと、どうしてリードから管が伸びているだけの楽器でこれだけの迫力と、多彩な音色を奏でられるのか不思議に思います。基は人間の息だけであり、そんなこと言ったら、ピアノにバイオリンにすべて似たようなモノですけど。そのわずかな力がこんな大きな音になって出てくるのが不思議。それを記録し、現代まで昔の面影を残してくれるレコードは、凄いと思ったしだいです。ベースをはじく指、ベースの胴鳴り、すべてを体で吸収したいと思いました。

 この時点で、店内にお客さんは13人。さすがの店主も忙しく動き回り、奥のテーブルで打ち合わせをする間もない様子です。

 となりの席に座ったおじさんから話しかけられました。聞けば、沖縄からこのベイシーへいらっしゃったとのこと。さすがに沖縄からとは驚きです。泊まりがけでじっくりベイシーを楽しまれて行かれるようです。ここで私は生意気にも「ベイシーも最高ですけど、仙台のカウントも良いですよ。」などと、オーディオの達人と思しき方に話してしまいました。

 GERRY MULLICAN MEETS JOHNNY HODGES。アルトサックスの音色でしょうか、低い豊かな音がたまらなくいとおしく感じます。この上なく甘いサックスとピアノの音色。柔らかく、まろやかで、触ると溶けてしまいそうな音。こんな音、ラウドスピーカーからだしてみたいです。(私じゃ無理)お客さんが多いせいでしょうか音が良くなってきたように感じます。



 MILES IN BERLIN。激しいドラムが、体を揺さぶります。ピアノ、ベース、トランペットの激しい闘いのような演奏が最高です。アップテンポのジャズ。混沌としていく中で、美しさが見えます。ここで思いました。このレコードはジャズのジャンルだけど、これはロックだと。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。この時ですでに入店してから2時間が経過。ここで、小心者の僕は、ジャズ喫茶の掟「2時間経ったら、店をでるか、追加注文」というのを思い出し、紅茶とつまみを追加注文してしまいました。



 COLTRANE LIVE AT THE VILLAGE VANGURD。このレコードの出だし。コルトレーン様には申し訳ないのですが、ピアノソロでもうすでに聴き惚れてしまいました。これだけで最高のジャズだと思いました。それにコルトレーンのサックスが加わると、最高を通り超して私の中の狂喜を呼び覚まします。。ここで、目を静かに閉じると、コルトレーンが私の座っている座席の2つくらい前で見えた気がしました。

 ここで店主がライカ?を持って、店外へ出て行くのを私は見逃しませんでした。夕暮れどきでベイシーに明かりが灯るl頃です。どういう構図で撮影しているのでしょうか。露出補正は、などと気になります。うーんカッコイイ。

 JAZZ ALIVE! A NIGHT AT THE HALE NOTE。テンポの速い曲が続きます。お客さんが入れ替わり立ち替わり入ってくるので、店主のテンポまで速くなっているのかな、などと考えたりします。そんなハズないか。菅原先生の頭の中には最初から最後までジャズの選曲の流れができているんだろうな。いい音ですし。いいジャズで気持ちは良いのだけれど、私の頭の奥底では複雑です。なにせ私の愛器スタックスやTD508では、こんないい音でジャズは聴けないから。うねる様な厚み、熱さ、哀しさ、優しさ、スタックスはあらゆる音は出ていると思いますが、体で感じることができない。TD508では遠く及ばない。残念。

 SERGE CHALOFF/BLUE SERGE。使い古された言葉ですが、この厚いサックスの音色はなんと表現したらよいのか。おしゃれな選曲だと思いました。外は日も暮れて、ジャズも夜が似合う曲になっているようです。ジャズ初心者の私の勝手な主観ですが。

 A Night At The Vangurd/THE KENNY BURRELL TRIO。なんて渋いエレキギター。絶妙のドラムとエレキギターのやりとり。静かなジャズだと思いました。エレキギターの音色のなんて丸くて優しいこと。クラシックギターの方が、よぼど刺激的な音が出ていると思いました。電気の力を借りても、走者の腕と、アナログレコードでは、エレキギターでもこういう音がでるのか。

 なんと美しく、儚いピアノの音色だろうと、曲の出だしで思っておりましたら、途中から力強くなってきました。当たり前のように鳴っているこのドラム。この高速ドラム(テンポではなく)、速い低音はどうしたら出てくるのだろうか。目を閉じるとBasie店内のドラムセットで、誰かがドラムを叩いているように思いました。ちょうど右前方にドラムの音像が定位しています。こうやって少しでも油断していると、オーディオマニア的な分析的な聴き方になってしまいます。いかんいかん。そこでレコードのジャケットの文字が小さくて、見えないので、近くに寄ってみてみるとElvin Jonesの名前が。レコードのジャケットを見て、私もびっくりしました。このドラムはあのエルビン・ジョーンズが叩いているのではないかと。

 ALL STAR ROAD BAND DUKE ELLINGTON 公爵演奏会。BIG BANDのライブ。今日はこの盤で締めて終わりにしようと思いました。スケールの大きいバンドだから当たり前ですが、スケールの大きい音が出ています。このスケールの大きさをそのまま再生できるのが、やっぱりBasieです。BIG BANDの整えられた音なんだけれども、時折見せるうねりのような音は凄いの一言。

 今日はジャズ喫茶ベイシーへ自己最長となる4時間も居たのでした。4時間もジャズを楽しんで1600円。安い。往復の交通費や時間を入れるとそうでもなくなってくるのですが、これだけ楽しめるのは本当にあり難い。

 真っ暗になった外にでて、くたくたになぜかくたくたに疲れ果てた私は、途中晩御飯を食べながら、深夜家へ戻り、意識が朦朧となりながら、自分のオーディオをいじり始め、ジャズのCDを次々かけては耳で確かめ、深夜過ぎ、もう限界と感じて眠りについたのでした。

 ジャズでもオーディオでも真剣に聴くと、かなり疲れます。この日、実感を伴って解かりました。

(2007年05月01日)

第9回目訪問(2007年3月上旬)



 第8回目の訪問に引き続いて、2日連続の訪問です。1時過ぎに店に着くと、扉には「準備中」の小さな張り紙が貼ってありました。仕方なく、付近を散歩。こういうのもいいものです。学生時代を思い出します。学生時代は、定期券の間の駅を降りては見知らぬ街を適当な方向へただ歩くのが好きでした。日によっては数十キロ以上も歩いたこともあります。さすがに社会人となり、体力の衰えた足ではそんな昔の様な散歩は出来ないので、付近を軽く歩く程度です。

 一関の街を歩いて思ったこと。かなり韓国料理屋さんが多いということです。何か歴史でもあるのでしょうか。そのうち昼飯を食べがてら"Basie"へ来てみたいと思います。韓国料理というと、私なんか無知なもので焼き肉とか、ビビンバぐらいしか知らなかったりするんですよね。ということで、しばらく散歩して"Basie"へ着くと、ちゃんと営業しておりました。

 扉を開け店内にはいると、昨日出会った沖縄の方と目であいさつを交わし、今日は特等席の左側の席へ座ります。スピーカーに近づいた分だけ音圧が上がりますし、音も変わります。今日は、静かに集中してジャズに身を任せようと思っていました。ビートを刻むシンバルの音がたまらなくリアルです。



 ところが、ERIC DOLPHY/OUT TO LUNCHがかかるとどうでしょう。そんな静かに身を任せるなんて出来ないような、サックスの音、ドラムの音、体に感じる振動。これは狂気を超えた凶器だと思いました。現代音楽といっても通じるような気がしました。この曲は集中して対峙して聴かないと、はじき飛ばされてしまいそうです。こんな音楽を何十年も前にやっていたとは。自分の見識の狭さが露呈してしまいます。

 なんだかんだで、集中していると時間が経つのが早いです。2時間などあっという間です。なので追加で紅茶を注文します。

 ここで、最近でた菅原先生の著書「サウンド・オブ・ジャズ〜JBLと僕が見た音〜」の文庫本に、サインを頂きに行きました。先生は、前回の「聴く鏡」にサインをしてくださったときと同じように、快くサインを下さいました。「Shoji Swifty Sugawara」今回は英語表記です。カッコイイ。嬉しさのあまり、昨日出会った沖縄の方に、思わず見せびらかしてしまいました。そして、このホームページのアドレスを書いた紙をお渡しし、逆に私は名刺を頂戴してしまいました。大切にしたいです。こういう一期一会は。

 あの方は、この拙いホームページを見てくれているかしら。「コルトレーンの命日7月15日に再会しよう。」と沖縄から来られた方は仰って別れました。が、後からよく考えると、コルトレーンの命日は、ベイシーの番地と同じ7-17、つまり7月17日です。肝心な所で間違っている私と沖縄のお方です。

 BIG BANGの演奏が続きます。思い出しました。"Basie"でBIG BANDを聴いている時の感じは、ブラスバンドを最前列の席で浴びるように聴くときの感覚に近いと思いました。ここであまりの音圧に、私は耳抜きをします。耳抜きなんて、水泳か新幹線がトンネルに入った時か、飛行機に乗った時ぐらいなので、まさかジャズ喫茶で耳抜きをするとは思いもよりませんでした。

 4時間が過ぎようとしているとき、Bill Evans Trio/Walz For Debbyがかかります。今日の最後にふさわしいレコードだと思いました。美しく、哀しく、切なく。今日はこれでお終いです。


(Waltz For Debby/Bill Evans Trio)

 まっ暗になった外へ出てみると、雪がちらほら降り始めていました。夜から天気は荒れるようです。家路を急ぐことにします。



(2007年05月01日)

第10回目訪問(2007年3月下旬)



 なんだかんだで、ベイシーへは10回目の訪問になってしまいました。なってしまいましたと書くと、いやいやなったのかと言われそうですが、そうではなく、ベイシーの音がたまらなく聴きたくなって、気付いたら10回目になっていたのでした。



 店内に入ると、お客は誰もいません。この音を独り占めできるとは、なんて贅沢なのでしょう。パッと聴き、高域がいつもより強めに出ている気がしました。

 豊かなピアノのイントロに始まり、スローテンポで、芳醇な低音の土台に支えられた音。軽くて飛んで来るようなドラムの音。あの薄暗い向こうに見える店主お手製のエンクロージャーは密閉型なんだろうな、などと相変わらずオーディオマニア的な聴き方になってしまうのが哀しいところ。

 Tommy Flaangan/Confirmationがかかっています。ベイシー訪問も10回目になるので、店主がかけるレコードのジャケットも見覚えのあるものが増えて来ました。私など、こうして書き留めておかないと感動したことを忘れてしまうので、心動かされたことは、欠かさずメモします。

 素晴らしい音を聴ける幸せ。そして、素晴らしいジャズを聴ける幸せ。こうして書いていると、まるでベイシーの音は、全く隙も欠点も無いような感じにはなってしまいますが、オーディオ的に分析的に聴くとベースの音が膨らみ過ぎているように感じます。もちろんオーディオは絶妙なバランスですから、このベースを、生の様な乾いた音にしてしまうと、今度はドラムの音がおかしくなったりするのでしょう。きっと。あと高域が若干強いように感じるかな。

 でも今のベイシーには、そんな小さな事はどうでも良いくらいのジャズが鳴っているわけです。

 出だしのシンバルにスティックをあてる音だけで、目が覚めるようです。ドラムの音がとてもリアル。そしてサキソフォンの音は厚みがあって、店全体に行き渡るような音なのに、うるささを全く感じません。かかっているディスクはStudy In Brown。気持ちを大きくしてくれるようなジャズです。店主はVIPなお客と、奧の丸テーブルで豪快にしゃべっています。真ん中奧の席に座ったせいか、音像の定位がとてもよく感じられ、ドラム、サキソフォンともにスピーカーのやや前方に定位するように聴こえます。


(Study In Brown/CLIFFORD BROWN AND MAX ROACH)

 続いて、出だしの大音量に思わずのけぞりました。BUDDY RICH/BIG BAND。生の音量そのままなんだと感じました。曲が終わると自分の耳が「キーン」といっているのが聞こえます。

 ドラムの音で、コップの水が振動しています。すごい音圧です。ピアノの音がイイ。ビート、リズムも最高です。生々しさ。低域から高域に至るレンジも凄まじいの一言。ドラムは、ちょうど右前方に定位し、特にドラムソロは圧巻。まるでベイシー備え付けのドラムセットでドラマーが叩いている様です。渾身のドラム演奏が伝わってきます。それは、HERBIE HANCOCK/EMPYREAN ISLESのレコード。



 Coltrane live at Birdland。コルトレーンの独断場と思いきや、さにあらず。ベース、ドラム共に素晴らしい演奏。コルトレーンの叫びのようなサックスに全く引けをとらない。楽しいライブ盤です。このシンバルとドラムの凄まじさは、きっとベイシーでしか聴けないのだろうな。混沌のカオスの中に美しさを感じました。拍手の音を聴くと、観客は10人くらいでしょうか。なんて贅沢なお客さんでしょう。何十年も前の観客をうらやましがって、どうしようもないのに。

 本当は2時間で、ベイシーを出ようと思っていましたが、とても2時間で帰れる音ではないので、この日も追加注文です。神がかったようなコルトレーンのソロが始まると、私は微動だにできませんでした。これだけレコードから感動を得られるとは。

 トイレに入っても落書きやサインがいっぱい。その中で、仙台のジャズ喫茶カウントの開店記念日が6月16日という書き込みがありました。本当でしょうか。本当ならば行かなければ。

 その後聴いたレコードは、コルトレーンの後ということもあり、少し物足りなく感じました。贅沢な望みなのか。狂喜のジャズを聴きたいと思いました。もっともっと。

 Jone Coltrane/Coltrane。私もこの盤はCDで持っているので、良く聴き知った一枚です。自分のTD508の弱点である高域と中低域の薄さ、がたちどころに解ってしまいます。というか高域と中低域と言ったら、全帯域の事ですね。


(COLTRANE/JOHN COLTRANE)

 その後何枚かレコードを聴いて、店主の「今日はこれでお終いでーす。」の一言で、私の10回目のベイシー訪問は終わりを告げたのでした。この後、VIPなお客がくるのでしょう。邪魔者は消え去るのみです。

 店を出ると、店の看板やらの電気は完全に消え、ドアには「本日定休日」の張り紙が、でもVIPなお客さんへのジャズはそれからもう少し流れたのでしょう。きっと。



 ベイシーからの帰り道、磐井焼なるバター入りの、大判焼きを食べました。もの凄く濃厚な味でお薦めです。また、駅前の魚出汁風味のおいしいラーメン屋、丸長ラーメンで夕食を食べ、空腹を満たしてから帰りました。



 店主にとってはどうでもいいものの、私にとって記念すべき10回目の訪問はこれでお終いです。これからしばらくは、仕事の都合上、ベイシーへ行けそうに無いのが残念です。

 あと、このページをご覧になっている皆さん。私は今までCDやレコード合わせて数百枚くらいは聴いてきたと思いますが、全然ジャズの知識はありません。せいぜい買ったCDのライナーノートを読むくらいで、ジャズ関連本といえば、菅原正二先生の「聴く鏡」と「サウンド・オブ・ジャズ」しか読んだ事がないのです。なので、このページに書いてあることは、ジャズ初心者の私が感じたこと、ほぼそのままで、先入観が働いていません。なので、歴史的背景や演奏内容と私の感じた事が、全く違うということも大いにありうることなので、その点はご容赦ください。

 ジャズファン必見の「Swing Journal誌」なども読んだことがありません。もう少し、聴き込んでから、ジャズの知識を仕入れようかなと思っています。

 高校時代の私は、自分が将来クラシックやジャズを聴き始めるとは全く予想していませんでした。



(2007年05月01日)

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