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6dB/octネットワークの詳細

〜スピーカーの製作に必要なネットワーク回路について、いろいろな本やサイトで設計の方法が紹介されていますが、数式だけが載っていて使い方が分からなかったり、内容が専門的過ぎて理解できなかったりしたため、勉強のためにまとめてみることにしました。電気が専門の方などが、ネットワークの理論やノウハウを公開していただければ楽だったのですが。どこか間違っているかもしれません。〜
※以下の回路図において、交点は黒丸●、スピーカーは抵抗で表しています。

6dB/octのネットワーの詳細


1オクターブあたり6dBの割合で信号を減衰させるネットワークです。ツイーターにはコンデンサー1個、ウーハーにはコイル1個の素子で構成されます。減衰特性が緩いので、高域共振の強いウーハーをハイカットする場合や、ツイーターの耐入力を上げたい場合、低い周波数までツイーターを使いたい場合などに、このネットワークを使用するのは難しいかも知れません。。

ただし、理論上合成周波数特性と合成位相特性ともに"1"となり、元の信号を再現するようです。さらに素子の数が少ないので、コストや調整のし易さも利点でしょう。

回路図と計算式を下記に示します。回路図において、ツイーターとウーハーは抵抗で表しています。

RH:ツイーターのインピーダンス(Ω)
RL:ウーハーのインピーダンス(Ω)
f:クロスオーバー周波数(Hz)
[回路図]


[計算式]
 

計算式に適当な数値を代入して計算してみれば分かるとおり、クロスオーバー周波数が低いほど、使用するコンデンサーとコイルの値が大きくなり、周波数が高いほど小さくなる。3wayなどでウーハーとスコーカーを低域でクロスさせるときは、巨大なコイルとコンデンサーが必要になるということが分かります。

6dB/octネットワークの周波数・位相特性グラフ


次に、ツイーターとウーハーのインピーダンスは一定として考え、
ツイーターのインピーダンスRH=8(Ω)
ウーハーのインピーダンスRL=8(Ω)
クロスオーバー周波数f=2000(Hz)
として計算すると、おおよそC1=9.97(mH)、L1=0.637(mH)、となります。このときの、6dB/octネットワークの周波数-ゲイン特性と周波数-位相特性をグラフにします。

[図1:周波数-ゲイン特性,周波数-位相特性グラフ(ツイーター正相接続)]


[図2:周波数-ゲイン特性,周波数-位相特性グラフ(ツイーター逆相接続)]


図1において、HPFゲイン(緑色の線)では、コンデンサーによって、クロスオーバー周波数から低い周波数となるにしたがって、1オクターブあたり6dBづつ減衰しています。また同時に位相(黄緑色の線)も、周波数が低くなるにしたがって、0°から+90°へ変化しています。LPFゲイン(青色の線)では、コイルによって、クロスオーバー周波数から高い周波数となるにしたがって、1オクターブあたり6dBづつ減衰し、同時に位相(水色の線)は0°から-90°へ変化しています。クロスオーバー周波数f=2000(Hz)では、HPF、LPFとも-3(dB)でクロスしています。

注目する点は、合成ゲイン(赤色の線)が0(dB)、合成位相(ピンク色の線)が0°となっており、ネットワークによって分割された信号が、回路上では、元の信号に復元することを示していることです。実際には、インピーダンスの変動や、f特性にピーク、ディップをもったウーハーやツイータの特性、バッフルステップなども考えると、そう簡単にいきそうもありませんが。

図2はツイーターを逆相接続にした場合のグラフです。合成ゲインが、正相接続した場合と同様に0(dB)となり、フラットになっています。ただし合成位相は、高域に向かって0°から-180°まで変化してしまいます。

-3dBでクロスの理由


図1において、HPF位相45°、LPF位相-45°のとき、両者ともゲイン-3dBでクロスすると、合成特性が0dBとなっていますが、なぜ3dBアップするのか、図3に示します。なお、HPFとLPFにかかる電圧の最大値は1.0(V)、クロスオーバー周波数f=2000(Hz)としています。

[図3]

※X軸を時間(s)としているのに注意。通常、交流グラフのX軸は、角度(rad)となる

上記グラフから、HPFの電圧とLPFの電圧を合成したものが赤い線となっています。その最大値は図から1.414(V)、HPFおよびLPFの電圧は1.0(V)なので、デシベル換算すると、
20×log(1.414÷1.0)=3.00(dB)
となり、3dBアップすることが分かります。

ウーハーとツイーターの距離差を考慮した設計


これまで、ウーハーおよびツイーターから試聴位置まで等距離にあるものとして計算してきました。しかし、実際にはツイーターとウーハーを同一点上に重ねることは不可能ですから、振動板の位置関係だけでなく、試聴位置によっても距離差が生じてしまいます。市販スピーカーではFostex NF-1やB&W Noutilus 80Xシリーズなどは、バッフルに段差をつけて、ウーハー、ツイーターとの距離差を少なくしようとしているように見えます。Thielなどはバッフルに仰角をつけて距離差を少なくしようとしているようです。なので、スピーカーの形状や試聴位置の関係によっては、これらの距離差を考慮したネットワーク設計が必要になります。

6dB/octネットワークにおいて、
ツイーターのインピーダンスRH=8(Ω)
ウーハーのインピーダンスRL=8(Ω)
クロスオーバー周波数f=2000(Hz)
C1=9.97(mH)、L1=0.637(mH)
(距離差)=(ウーハーから耳までの距離)-(ツイーターから耳までの距離)(cm)
として計算してみます。

[図4:(距離差)=-3(cm)、ツイーター正相接続]


[図5:(距離差)=-2(cm)、ツイーター正相接続]


[図6:(距離差)=-1(cm)、ツイーター正相接続]


[図7:(距離差)=0(cm)、ツイーター正相接続]


[図8:(距離差)=+1(cm)、ツイーター正相接続]


[図9:(距離差)=+2(cm)、ツイーター正相接続]


[図10:(距離差)=+3(cm)、ツイーター正相接続]



[図11:(距離差)=-3(cm)、ツイーター逆相接続]


[図12:(距離差)=-2(cm)、ツイーター逆相接続]


[図13:(距離差)=-1(cm)、ツイーター逆相接続]


[図14:(距離差)=0(cm)、ツイーター逆相接続]


[図15:(距離差)=+1(cm)、ツイーター逆相接続]


[図16:(距離差)=+2(cm)、ツイーター逆相接続]


[図17:(距離差)=+3(cm)、ツイーター逆相接続]


しかし我ながら、見づらいですね。

(距離差)=-3→0(cm)まで変化をみると、ツイーター正相接続ではゲインが盛り上がり、ツイーター逆相接続だとデップができています。しかし、バッフルを現実的な形状に収めようとすれば、ツイーターをウーハーよりも耳から遠くに設置するのは困難なので、この計算結果はさほど重要ではないかも知れません。

(距離差)=0→+3(cm)まで変化をみると、ツイーター正相接続では、距離差が増加するのにしたがって、デップがかなり大きくなるのが分かります。逆にツイーター逆相接続だと、クロス付近で若干盛り上がるようです。加えて、距離差=0→+3までの間では、正相接続よりも距離差によるゲインへの変動幅が少ないように見えます。スピーカーの作例を見ていると、6dB/octのネットワークでツイーターを逆相接続しているものが多いのには、ここに理由があるのかも知れません。

ウーハーとツイーターに距離差があると、計算どおりの素子の定数では、ピークやディップができてしまうことが分かります。また、クロスオーはー周波数が高くなればなるほど、1波長あたりの長さが短くなるので、距離合わせが難しくなる様です。なので、マルチウエイを実践されている方々が、試聴位置を厳密に決め、ツイーターとミッドの位置関係を数ミリ単位で調整しているのにも肯けます。

メーカーの2wayのスピーカーで、たまにクロスが5(kHz)とか6(kHz)というものがありますが、どのように、ネットワークでつないでいるのでしょうか。メーカーの意図したスピーカーの設置や試聴位置から少しでもずれると、大きなディップができそうなんですが。

見づらいので、アニメーションにしてみました。

[図18:(距離差)=-3→0→+3(cm)、ツイーター正相接続]


[図19:(距離差)=-3→0→+3(cm)、ツイーター逆相接続]

ウーハーのインピーダンスの上昇を考慮した設計


今まで例は、ウーハーやツイーターのインピーダンスが一定として計算してきました。しかし実際には多くのウーハーのインピーダンスは、周波数によって大きく変動するので、これらを考慮したネットワークの設計が必要です。(ツイーターもドーム型のものは、最低共振周波数付近でインピーダンスが大きく変動するので、補正が必要かも知れません。)図18に、はだかのウーハーの「インピーダンス-周波数曲線」の例を示します。

ボイスコイルの直流抵抗:Rdc(Ω)
ボイスコイルのインダクタンス:XL(Ω)
機械的抵抗:MI(Ω)

[図20:ウーハーのインピーダンス-周波数曲線]


Rdc、XL、MIを合成した赤い線がウーハーのインピーダンス特性となります。低域のMIによる上昇は、エンクロージャーの形式(バスレフor密閉など)や容積によって変化します。

ためしに市販のユニットのTSパラメーターのデータ(Rdc、XL)から、計算でインピーダンス−周波数曲線を描いてみましたが、メーカーのデーターシートのインピーダンス曲線と一致しません。○| ̄|_なぜでしょう?

ここでは低域のfo付近のインピーダンスの変化は無視し、高域のインピーダンス補正のみを考えます。6dB/octネットワークとウーハーのインピーダンス補正回路を組み合わせた回路図と計算式を下記に示します。

[回路図]


[計算式]

 



Re=(ボイスコイルの直流抵抗)(Ω)
Le=(ボイスコイルのインダクタンス)(mH)


上記回路図において、RiとCiがインピーダンス補正回路です。ネットワーク側L1から見たRi、Ci、RLの合成インピーダンスが一定になるようにし、計算どおりの減衰特性を得るための回路です。

6dB/octネットワークにおいて、
ツイーターのインピーダンスRH=8(Ω)
クロスオーバー周波数f=2000(Hz)
C1=9.97(mH)、L1=0.637(mH)
ウーハーのインピーダンスRLは図21のような曲線とし、補正回路なしで計算してみます。計算結果は図22に示します。このウーハーの曲線は、Re=6.4(Ω)、Le=0.25(mH)として適当に書いたものです。

[図21:ウーハーのインピーダンス特性]


[図22:ゲイン特性,位相特性グラフ(ツイーター正相接続,補正回路なし)]


図22のとおり、補正回路なしでは、クロスオーバー以上の合成ゲインが、約+2(dB)盛り上がってしまいます。LPFゲインをみると、6dB/octで減衰していないのが分かります。

つづいて、補正回路に定数を入れて計算してみます。補正回路の素子は計算式に代入して、
Ri==8(Ω)
Ci=3.9(μF)、となります。

[図23:ウーハー・補正回路・合成インピーダンス特性]


図23からウーハーに補正回路が並列に加わることによって、ウーハーと補正回路の合成インピーダンス特性が≒8(Ω)となり、だいたいフラットになっていることがわかります。

[図24:ゲイン特性,位相特性グラフ(ツイーター正相接続,補正回路あり)]


図23と比較し、補正回路ありで計算した図24では、クロスオーバー以上の合成ゲインの盛り上がりが抑えられています。それでも、クロスオーバー周波数が2500(Hz)くらにずれ、合成ゲイン特性に約-2(dB)程度のディップができてしまいました。しかし、LPFゲインをみると、おおよそ6dB/octで減衰しており、インピーダンス補正回路が働いているのが分かります。

ウーハーのインピーダンス補正回路なしでフラットにできるか


ウーハーのインピーダンス補正回路を入れなくても、ウーハーのボイスコイルのインダクタンスの上昇を見越して、計算よりも大き目のコイルを使えば、フラットになるのではないかと考えたので、計算してみます。

下記回路図において、
ツイーターのインピーダンスRH=8(Ω)
(ウーハーのインピーダンス特性)=(図21の曲線)、とします。
クロスオーバー周波数f=2000(Hz)とすると、6dB/octネットワークの計算式から
C1=9.97(mH)
L1=0.637(mH)
の値がでてきますが、合成ゲイン特性がフラットになるよう、コイルを少し大きめの
L1=0.95(mH)
として計算し、結果を図25および図26に示します。

[回路図]


[図25:ゲイン特性,位相特性グラフ(ツイーター正相接続,補正回路なし)]


[図26:ゲイン特性,位相特性グラフ(ツイーター逆相接続,補正回路なし)]


図25より、どうやらツイーター正相接続では、計算よりも少し大きめのコイルを使って、合成ゲイン特性をおおむねフラットにできるようです。図26からツイーターの逆相接続では、合成ゲイン特性が、ほぼフラットになっています。ただし、LPFゲインを見ると、図25、図26ともに減衰特性が6dB/octになっておらず、補正回路を入れたときよりも、広い帯域でツイーターの音にウーハーの音が重なってしまうようです。

これらの計算に下記のエクセルファイルを使いました。
エクセルファイル(右クリック→対象をファイルに保存)

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